わざわざ魔女に連れ戻してもらったのに。
こんなにも早く、潮時が来ようとは。
何だか此処に還ってきた自体、無意味な気がする。
それでも、良いか。
どうせ此処にいてはイケナイんだから。
たとえ私の存在を認めてくれようとも。
一緒に還ろうか、ねぇ？
「頼むから、もう少し留まっていてよ･･･」
只でさえ、同じ場所に存在するだけでも寒気がする。
黒い闇が、迫ってくる。
が後ろに必死に抑えている“異界”が、徐々に広がり始める。
焦りの表情が見えた。
「早く･･･！じゃないと浸透し始める･･･！！」
今は『』という異存在が、召喚された“モノ”を引き留めている。
だがいつ、その“モノ”がの力を上回るか分からない。
一刻を争う自体だ。
「あー･･･何だか、還りたくなくなってきた」
ずっと暗い場所にいたから。
こんなにも明るくて、楽しい場所に出てこれるなんて。
今更だけれど惜しい気がする。
魔女に感謝するべきなのか、恨むべきなのか。
―――･･･分からない。
「･･･！」
「空目君･･･遅いよ･･････」
その時、空目とあやめがトイレに到着した。
２人とも少し息を切らしている。
「あやめ、アレを」
「･･･はい･･････」
あやめはに近寄り、奥の“何か”に目を向けた。
そしてすぐに、顔を引きつらせた。
「、さん･･････」
「あは、ばれちゃった？さっきから、離してくれないんだよ」
の“異界”は、既にそこの異界と一体化していた。
つまり今は、召喚された“何か”と同じ存在へと化している。
このままあやめが詠唱をすれば、間違いなくも還ってしまう。
「どうした？」
「ちょっと面倒なことになっちゃって」
「･･･異界の一体化か」
「当たり･･････どうしようか･･･」
“何か”と共に還るか。どうにかして、自分だけ此処に残るか。
だが後者の確率は、極めて低い。
空目も黙りこくってしまった。
「一緒に連れて還るわ」
「！！」
「だからあやめちゃん、気にせず詠っちゃって」
「ですが･････」
「早くしないと手遅れになっちゃうから」
「分かり、ました･･･」
は苦笑した。
あまりにも短い日々だったから。
そして、あやめの詠唱が始まった。
今連れてこられし者が還ります
哀しき子が還ります
風がその門を開け
光がその道しるべ
今還ります
「空目君、ばいばい」
「あぁ」
「･･････また来ちゃっても良い？」
「来れるものならな」
散る赤き花びらと共に
元居た故郷へと
優しき花と共に向かえれば
その心永遠に浄化されし
今門を開きます
「じゃぁ来ちゃおうかな〜」
「･･･此処なら構わん」
「有り難う。良いところに召喚されたものだよ」
「魔女に感謝か？」
「五分五分かな」
その言葉と同時に、の姿が薄れ始めた。
そして充満しきっていた鉄錆の匂いも引いていく。
「また逢おうね。その時は人間同士だと良いなぁ」
「･･･あまり期待しないのが賢明だな」
「酷ーい。ま、逢えたらの話だけど。じゃぁね、空目恭一君、あやめちゃん」
手を振るの姿は、完全に消え失せた。
あまりにも唐突に終わりを向かえた物語。
空目は１つ、息を吐いた。
「行くぞ」
「･･･はい･･････」
２人は踵を返し、文芸部部室へと向かい始めた。
今まで隣にいたの姿は、亡い。
「あーあ、もう時間切れかぁ･･･早いなぁ･･･」
生温い風が吹く裏庭で、詠子は呟いた。
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