「トイレの召喚の“儀式”を知ってる?」
「知らんな」
は、一通り“儀式”の事を話した。
トイレ・ノック・言葉。
そしてそれによって、自分が召喚されたこと。
そして昨日“何か”が召喚されてしまったこと。
空目は眉を顰めた。
「つまり、日下部達が感染したかもしれないということか」
「うん、そう。どうなるか分からないの」
「・・・その召喚された“モノ”は一体何だ?」
「デキソコナイにもなれなかったデキソコナイ、かな」
空目は小さく息を吐き、膝に広げていた本を閉じた。
そして少しの間思考した後、話を再開させた。
「そのトイレは何処だ?」
「・・・・・・感染するかもしれないよ?」
「構わん、行くぞ。あやめも付いてこい」
「・・・・・・・・・はい」
「・・・仕方ないなぁ」
3人は部室を後にし、“儀式”のトイレへと向かった。
その時の空の色は、どんよりとした灰色だった。
「此処」
「・・・・・・そうか」
空目の鼻が、ピクリと動いた。
それはとあやめ同様で、異界の枯れ草と鉄錆の匂いが分かる。
その匂いは、トイレ中に充満していた。
「あやめ、どうだ」
「・・・居ません、でも・・・異界に通じてます・・・・・・1番奥の個室・・・」
あやめが言ったのは、紛れもない“儀式”を行った個室トイレ。
だがそこに、召喚された“何か”の姿、気配は無い。
もう既に何処かへ感染してしまった可能性が高い。
「、お前は今すぐ日下部の所へ向かえ。異界の穴はどうにかする」
「分かったわ。・・・もしもの時は、どうにかするから」
「あぁ」
***
「綾子ちゃーんっ!」
「あ、ちゃんおはよ〜」
「おはよう。ねぇ、何か変なこと起こらなかった?」
「何も無かったけど・・・どうしたの?」
「ううん、何でもないの。気にしないで」
は安堵の笑みを見せた。どうやら綾子に感染はしていないらしい。
2人は少し賑やかな廊下を進む。
「ねぇ、ちゃん・・・一緒にトイレ行かない?1人ちょっと恐いんだ〜・・・」
「良いよ。私も1人でトイレって勇気要るし」
「良かったー!でもゴメンね?付き合わせちゃって」
「気にしない、気にしない」
2人は1番近いトイレに向かった。
そのトイレに入った途端、は“何か”を感じた。
だがそれ程気になる程度じゃなかったので、気を一時逸らした。
綾子はその間にも個室へ入っていた。
その時、
ざわり―――、
嫌な悪寒を感じた。
は周りを注意深く見据え、それを感じようとする。
しかしそれは、まるでトイレ全体から発せられているようで。
小さく身震いした。
「げ・・・勘弁してよ」
一瞬にして、そのトイレが真っ黒に染まり上がった。
まだ朝だというのに、夜――否、夜以上の暗い闇がトイレを包み込んだ。
綾子を助けに行こうとするが、身体が重かった。
自分も異存在だというのに、異界に染まり上がっていくトイレに身体が付いていかない。
「綾子ちゃん!綾子ちゃん!!」
「・・・いやぁぁぁ!ちゃん!!!助けて!!!!」
「落ち着いて!そこから出れそう?!」
「何か居る・・・何か居るの!!」
綾子の入っている個室に、どうにか近付く。
確かにそこからは、言い知れない程の闇を感じた。
ツンと、鉄錆の匂いが鼻を突く。は1つ、息を吐いた。
「どうしよう・・・・・・・・・・・・・綾子ちゃん、ちょっと扉から離れてて!」
「うんっ・・・・・・!」
ダンッ!
は思いっきりトイレの扉を蹴った。
何度か繰り返し、強制的に扉を開かせた。
そしてそこにいたのは、綾子と黒い影の塊。息を呑んだ。
「早く!」
手を伸ばして、涙を浮かべ怯えている綾子の手を取った。
そしてこちら側にどうにか引き込む。
「綾子ちゃん、空目君達を呼んできて。多分、あの“儀式”をしたトイレにいるはずだから」
「分かった・・・!でもちゃんは・・・?」
「良いから!・・・忘れたの?私も異存在なんだから」
「あ・・・・・・」
気付いたように綾子は目を開き、急いでトイレを出て行く。
は以前、黒い影の塊が蠢くトイレに再び目を向けた。
ざわざわと悪寒が走り、鳥肌が立つ。
「まさかこうなるなんてね・・・・・・」
はポツリと呟いた。
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